忘れたくないこと

1週間区切りの日記をあげています。

クアトロフォルマッジで思い出した、ある友達との始まりから終わりまで。

 

トーストに3種類くらいチーズを乗せて、蜂蜜と胡椒をかけて食べました。

みているだけでカロリーの匂いがします、美味しかったです。

 

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見た目は良くない。クアトロフォルマッジというにはチーズが1種類足りない。

 

私が初めてクアトロフォルマッジを食べたのは、高校生の時でした。

高校1年生の終わりに、ずっとかわいいなあと思っていた子とひょんなことから仲良くなって、高校2年生では同じクラスになることができました。とはいえ、いわゆる「いつメン」みたいな状態ではなく、あくまで私からみた彼女は「憧れていたら友達になってくれた女の子」、向こうは「普通に仲良い友達」と思っていてくれたかな、くらいの間柄でした。

出席番号も前後で、話す機会もたくさんありましたが、どこかに遊びに行くとかそういうことはなかった2人。私にとってはそれで全然よかった。彼女とどこかへ遊びに行くなんて全然想像もできないくらい、私にとって彼女は仲良くしてくれていることも夢みたいな、高嶺の花でした。

高校3年生の11月、周囲の予想を裏切り早々に大学受験合格を手に入れた私は、バイト探しに奔走していました。とはいえ「下北沢のカフェ的なところで働きたい」という絶対かつ絶望的な条件だけを握りしめ、下北沢を歩き回っただけですが。

今もそうかもしれませんが、私が働きたいと思っていたおしゃれでこじんまりしたカフェが高校生を雇うことはあまりないんですよね。どのカフェの募集要項を見ても高校生不可ばかり、もう諦めようかなと思ったところで駅近くに戻ると、その後私のバイト先となるお店のバイト募集看板を見つけたのです。そこには「高校生OK」とは書いていなかったけど、「高校生不可」とも書いていなかったんです。

電話番号をメモして、裏路地に入り立ちながら電話をかけました。「高校生は募集していますか?」と聞くと、「大丈夫ですよ」といった返答が。嬉しくなってその場で面接のお願いをしました。私の記憶が正しければ面接はその日の夜。写真はいらないから、簡単な履歴書を書いて持ってきて欲しいと言われ、別のカフェで書いて時間を潰したような覚えがあります。

 

私の未熟だなあと思うところ、それは「カフェっぽい」というだけでその店で働こうと思い、実際に店に行ってみなかったこと。面接という場面で初めてお店に入った時、「思ったより広い」「思ったより暗い」「働いてる人のガラが悪い」と印象は最悪でした。面接相手である店長もガタイが良くて髪も顔もいかつい、さらにちょっと怖い雰囲気を出していました。

「完全に失敗したし、そもそもこれ落ちるだろ。」と思いながらも、一生懸命に受け答えをして、お決まりの「採用の場合、1週間以内に連絡しますね。」の言葉で面接は終わりました。

ほぼ諦めていましたが、無事採用してもらえて、私の「下北沢のカフェで働く」という希望が叶ったわけです。しかし、そのお店は思ったより定食屋要素が強く、思っていたようなカフェ店員ライフとはなりませんでした。それでも、私は結構可愛がってもらえて、嫌なこともたっくさんあったけど、楽しく働くことができました。

そもそもが、高校生は雇う予定がなく、電話口の店員が「楽しそうだから」とふざけて面接を勝手に入れたらしいです。呆れた店長が落とすつもりで面接に臨んだところ、思ったより私の態度が良かったから採用してみるかと決めてくれたことを、働き始めてから半年後に聞きました。いろんな運や優しさがかけ合わさって、私は無事下北沢で働いていたのでした。

 

どうしてこのバイトの話を急に長々としたか、それは私が働き始めて数ヶ月後から、高嶺の花である彼女とこのお店で一緒に働くことになるからです。

その日の学年集会は受験に関することで、私と、専門学校への進学を決めていた彼女にはあまり関係のない内容でした。出席番号順に着席だったので、その日は彼女と隣り合って座り、近況を話したりしていました。「新しく始めたバイトはこういうところで、こういう条件で…」と何気なく話していると、「私もそこで働きたい。あなたと一緒に働きたい。」と言ってくれました。私はびっくりして、でもとっても嬉しくて、今度店長に話しておくね!とその日の話は終わりました。

彼女がどこまで本気か分からないなか、一応店長に話してOKをもらい、店長の連絡先を彼女に送ったとしばらくして、合格したよ!一緒に働けるよ!と連絡が来たときは、嬉しいとかよりも「本気だったんだ」と思ったような気がします。彼女は「もっとあなたと仲良くなりたいと思っていたから、きっかけができて嬉しかった。バイトの話を聞いていたら“これだ!”って思った。一緒に働けることが本当に楽しみ。」とLINEで伝えてくれて、私はその文章をスクショしてたまに取り出してはうっとりと眺めていました。

店長も「君の友達なら大丈夫だと思ってたよ。」と言ってくれて、あの頃は自分の真面目さがきちんといい評価につながる実感があって、本当にしあわせだったなと思います。

そんなこんなで以前より距離の近くなった彼女と、たくさん遊びました。たくさん思い出ができました。

その思い出の一つが、下北沢のカフェ「ブリキボタン」で食べた「4種チーズのクワトロピザ〜蜂蜜添え〜」です。外観だけ見て、絶対に中も可愛いだろうなと思っていたカフェに彼女を誘って遊びに行きました。思った通りかなり雰囲気のある店内は、トルソーやミシン、ボタンなどの洋裁道具が出窓や棚の上や壁に飾られていました。

ずっと「チーズのピザに蜂蜜をかけて食べると美味しい」という噂を嘘だと思っていたので、この時も「うわあ、またあるよ。」くらいな気分だったんですが、彼女が「食べたことないの?美味しいよ!」というので頼んでみることに。甘塩っぱいに対して懐疑的だった私は、その一口目によって世界の裏側につながるドアが開いたような気分になりました。なんだこれは…!美味い…!と。初めての機会をちゃんとお店で経験したことも大きかったと思います、本当にちゃんと美味しかったので。

壁に向かって置いてあるソファに隣り合って座って、それぞれ頼んだ飲み物が空っぽになっても彼女との話は尽きませんでした。どうやら彼女は、バイトが自分に合っていないのではと思っていたようで、ずっと自信がなさそうでした。そして私たちは、もしバイトという共通点がなくなったからと言って、遊ばなくなるわけじゃないんだから。みたいな話をして、彼女はもう少し続けた後に辞めるかどうか考えることにしました。

結局彼女はその後1〜2ヶ月は働きましたが、次第に学校が忙しくなりバイトを辞めてしまって、私も働き始めて1年ほどで退職。そしてもちろん、学校・バイトという共通点が無くなってもかわらず、私たちは良く会って遊びました。

そんなに仲良くなっても、私はある一瞬で、またいつものように友人を手放してしまうんです。

彼女と遊ぶことは楽しかったけど、一つ気になることがありました。それは「彼女のインスタグラムに私の姿がない」ということでした。彼女は私の顔や手はおろか、私と食べたご飯の写真すら載せたことがないのです。厳密にいうと、もしかしたら初期の方は載せてくれていたかもしれません。私はインスタグラムに顔を出していなかったし、彼女なりの気遣いだったのかもしれませんが、私はずっとそのことが気になっていました。

「なんで載せてくれないの!」というわけではなく、私はいつも「この人は本当に私といて楽しいのだろうか」「私から誘われて断れないから遊んでくれているだけではないのか」ということを考えてしまう質なので、当時は彼女の気持ちを推測する基準をインスタグラムにしていたんです。彼女は投稿を全くしないというわけでもありませんでした。多くはないけど週に1度は必ず何かおしゃれな写真を載せていました。そしてそこには、良く登場するとても美しくてスタイルが良くておしゃれな一人の女の子がいました。

その綺麗な子は、大々的に芸能活動や読者モデルなどの活動をしているわけではないけど、サロンモデルなどの協力はしているような子でした。彼女が嬉々としてその綺麗な子と友達になったきっかけ、どんなに素敵な子なのか、その子といるとすごく楽しいということを話していたのを覚えています。私自身もまず彼女のルックスに惹かれたところから始まり、こうして仲良くなっているのも不思議なくらい日々を夢みたいな気分で過ごし、彼女のおしゃれなセンスをすごく尊敬するし、真面目な話も息ができなくなるくらい笑う話もできたし、とにかく彼女が綺麗な子に対して感じている喜びが手に取るように分かったのです。

私が綺麗じゃないから、おしゃれじゃないから、スタイルが良くないから、彼女のインスタグラムに載せてもらえないんだと思っていました。そしていつしか、自分の中でだけ完結していた「載せてもらえない」という気持ちは、彼女から「あなたはダサい」と言われているような感覚に変わっていきました。

 

私は、とにかく不安でした。それは、ダサいと思われているかもしれないということでもなく、友達をとられるかもとか、友達が一人いなくなるかもとか、そういうことじゃなくて、「彼女は本当に私と遊びたいんだろうか」という断ち切れない疑念のせいでした。

 

きっかけは些細なことでした。就活の相談にも乗って、無事に就職が決まり、彼女が働き始めて何ヶ月かたった頃だと思います。

私の「片耳用のピアスで欲しいものがあるんだけど、1つ4000円で高くてさ〜!」に対して、彼女が「まあそのくらいはするよね。」と言いました。今なら彼女の言う通りだと思うし、社会に出てアパレル会社で正社員として働いている彼女にとって、ピアス片耳4000円はそこまで驚くことでもなかったのです。むしろ安いくらいかな?

私は彼女の態度と返答を受け取った瞬間に、心の不安が弾けたような感覚と、その後投げたいくつもの言葉が向かい合って座る彼女に全く届いていないような気持ちになって、もうだめだと思いました。彼女の価値観と私の価値観の差が開きすぎていて、以前と同じように楽しく話せる気がしなくなってしまいました。私はその時に気がついたけど、もしかしたら彼女はもっと前から、この気持ちを抱えていたかもしれないなと今は思います。

実際その日もきっと、お腹が捩れるほど笑いました、真面目に仕事の話もしたし、私も大学の話をしました、その二人の姿はきっと高校生の頃と変わらない眩しいものだったかもしれません。しかし、私はもう彼女に連絡を取るのはやめようと心に決めていました。

 

私は彼女に連絡しなくなりました。彼女からも連絡は来なくなりました。

私はSNSのいわゆるリア垢を全て削除し、ちょうどその頃どっぷりハマり始めたKPOPに傾倒していきました。彼女のインスタグラムアカウントは、覚えやすいIDだったので、たまに検索して覗いていました。就職先を退社して、新し職場に入り、すごく雰囲気が変わってさらにおしゃれになっていました。あの「ピアス1つ4000円」みたいなきっかけは、あの時でなくてもいつかは来たのかもしれないし、そもそも彼女から連絡が来ない時点で私の「彼女は本当に私と遊びたいんだろうか」は、悲しいけど正解だったんでしょう。私はクアトロフォルマッジを前にしてどうしても彼女のことを思い出してしまいますが、彼女が私のことを思い出すことはないんでしょうね。